11月6日の大統領選挙投票日まで5ヶ月を切った。今回の選挙で取り沙汰されているのが、投票者の身分証明についてである。
日本では期日前投票でも当日投票でも、葉書で届いた投票券を持っていくだけで、免許証などの本人確認は行われていない。考えてみれば、運転免許証かパスポートぐらいしか写真つき証明書は浮かばない。日本で身分証明によく使われる保険証は、写真付ではない。
アメリカでも、かつては投票時の身分証明書の提示は議論されることはなかった。
だが、2000年大統領選挙が流れを変えた。フロリダ州の古い投票用紙と読み取り機がもたらした投票結果は混乱を極め、投票日から1ヶ月が過ぎても大統領が決まらない事態に陥った。
1990年代では、アメリカ在住の外国人のところに投票券が届いたと言う話も耳にしたことがあるほどだ。
2000年以後、選挙の質の向上が議論されるようになり、投票時に身分証明書の提示を義務付ける州が2003年からあらわれた。現在、なんらかの形で身分証明を必要とする州は50州中30州にのぼる。その中で写真付のIDを必要とする法律があるのは17州(アラバマ、フロリダ、ジョージア、ハワイ、インディアナ、アイダホ、カンザス、ルイジアナ、ミシガン、ミシシッピ、ニューハンプシャー、ペンシルバニア、サウス・カロライナ、サウス・ダコタ、テネシー、テキサス、ウィスコンシン)である。だが、アラバマ、ミシシッピ、ニューハンプシャー、サウス・ダコタ、テキサス、ウィスコンシンでは、施行されていない。
ヘリテージ財団は、以下のような不正投票を避けるために、身分証明を提示する政策を支持している。
・身代わり投票
・虚偽の有権者登録による投票
・複数の州で登録している同一人物による複数投票
・選挙権のない外国人による投票
これらを防止することによって、民主主義の整合性が維持されるとのことだ。
一方、身分証明書の提示に反対する団体もある。その根拠は、身分証明の提示は、特にアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系といったマイノリティーの投票行動を妨げるからだ。
アメリカでは、投票するのに有権者登録が必要である。投票方式を複雑にすればするほど言葉に疎い割合が多いマイノリティの投票を阻むことになる、と従来言われてきた。
そのため、有権者登録を推奨するマイノリティ向けの組織は全米中に存在する。オバマ大統領が大学院に進学する前、まさに有権者登録を手助けする非営利団体で働いていた。
州ごとの結果で州の代表委員の数を勝者が総取りするアメリカの選挙方式では、州ごとに厳しい選挙戦が繰り広げられる。2000年のフロリダ州の投票の混乱は1784票で選挙の行方が決まることを全米に知らしめた。
1票の価値が認識されたのである。
ジョージア州では、投票者の身分証明書の提示を義務付けたと同時に、身分証を持たない人に無料で写真付IDカードを発行することも決めた。
ヘリテージ財団のハンス・ボン・スパコフスキーによると、2004年から2010年の間で、ヒスパニック系と黒人の投票者は大幅に増加しており、2000年から2010年にかけての人口増加よりも大きという。そのため、投票者のID提示を義務付けることがマイノリティーの投票を妨げるという批判は当たらないと主張する。
テキサス州では、最近、ジョージア州と類似する法律が通った。だが、連邦政府の司法省によりその施行が差し止められた。現在、テキサス州は司法省を相手取って訴訟を起こし、現在ワシントンDCの地方裁判所で審議中である。
さて、大統領選挙までに、このなんともアメリカらしい民主主義の議論はどんな方向に落ち着くのだろうか、興味深い。
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