Thursday, April 19, 2012

ヘリテージ:石原東京都知事講演の舞台裏

 

 

The Heritage Foundation 
ヘリテージ ワシントン ニュースレター No.37
 横江 公美 アジア研究センター 2012年4月19日  

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石原東京都知事講演の舞台裏    
 
4月16日(月曜日)、13時から石原慎太郎東京都知事がヘリテージ財団の大ホールで講演した。
すでに、講演が終了した瞬間から日本でも話題になっているように、都知事はここで「尖閣諸島を東京都が購入する」と発表した。
 
講演の内容は、私はもちろん誰も知らなかったので、会場の空気が一瞬止まった。
 
何を言っているのか、理解できなかったほどだ。理解するのに、かなりの時間を要した。後から聞くところによると、都知事の側近以外、同行するほとんどの都職員も都知事が何を話すのかは知らなかった。
 
その後、東京都庁は、大慌てだったと言う。
 
ヘリテージ財団はアメリカの保守思想で知られ、石原都知事は日本的保守思想で知られるが、同じ「保守」と言う言葉をつかうが、歴史観においてはその国の歩みなので、かなり違っている。
 
そう意味で、石原都知事の講演はヘリテージ財団にとっても大いに刺激的であった。フルナー所長はそれを予測してか「石原知事はその挑発的な発言で有名です」と最初に紹介していた。
 
今回のプログラムは、石原都知事が日本の立場で講演し、その後、その講演を受けて、ヘリテージ財団のウォルター・ローマンが司会でバンダービルト大学のジェームス・アワー教授とリチャード・ローレス元国防次官補の2人がパネリストとしてコメントすると言う方式で行われた。つまり石原都知事による講演が日本の声として第一部で、第二部がアメリカの見方という構成である。
 
「日米関係とアジアにおける日本の役割についての対話(The U.S.-Japan Alliance and the Debate Over Japan's Role in Asia)」というタイトルで「Debate対話」という単語があるのはそのためだ。この講演は、色々な意見があることを提示することを目的とするイベントだった。 
では、アメリカ人はどのように石原都知事講演にコメントをしたのか。
 
2人のパネリストはともに「尖閣諸島」に関するコメントは控えていた。ジェームズ・アワーは「2,3ヵ月後だったら、コメントできるが、今はまだ早急だ」と前置きし、コメントをはじめていた。
 
その場にいた人は、日本人であれアメリカ人であれ、「尖閣購入計画」ということは想定外であったのだ。
 
都知事は、気候変動から日本の憲法まで幅広く語ったが、司会者とパネリストがコメントしたのは、憲法と核発言についてだった。
 
石原都知事は、今の日本の憲法は占領下でアメリカが作ったものであり、憲法改正にとどまらず、憲法を廃棄し新しい憲法を制定すべきとの見方を提示した。石原都知事はその理由として、世界でことが起きると、自衛隊が出かけていくが、現在の憲法ではしっかりした活動ができないことをあげた。
それに対し、3人はいずれも「憲法改正で良いのではないか」との見方を示した。また、憲法論議については日本で議論すべきこと、というコメントもあった。
 
また、石原都知事は、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本は核を真剣に考えなければならず、まずは核シミュレーションから始めるべきとし、オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞した2ヵ月後に核兵器のシミレーションを行っており、日本がシミレーションも行えないことはおかしいと話した。
それに対し、アワーは「核を持つことはコストがかかる。アメリカの核の傘があるうちはその中に入っていればいいのではないか」という見方を返していた。
 
司会のローマンは、「私たちは、都知事とは異なる見方は持つが、強い日本であることを望んでいる」と指摘した。 
 
最後に石原都知事の都知事らしい発言を紹介しよう。
冷戦時代、アメリカのミサイルのほうがソ連のミサイルよりも性能が良かった。それは日本の部品を使っているからだ。もし、ソ連が日本製を利用したら、ソ連の製品の方が良かったかもしれない。
 
「日本と一番の関係を作りたい」というフルナー所長の言葉で終わった。
ちなみに「一番」は日本語で言っています。
 
石原都知事の講演は以下のリンクでご覧いただけます。
 


キャピトルの丘

石原都知事の講演後の記者会見を紹介しよう。
 
なんと、東京都の職員は、「知事の気分次第」なので、記者会見をやるかやらないかはわからない、と当初語っていた。
 
とりあえず私のミッションは、歓談後、石原都知事を記者会見の会場に連れてくること。
 
全く心配は余計なお世話で、都知事自ら記者会見に赴いた。
 
記者からの質問は「尖閣諸島購入」に集中した。
 
ここでの石原都知事の発言で、「そんなに高くなかったこと」そして「合意は終了」しているということがわかった。
 
そこで「議会の反応」と「東京都民の反応」についての質問も上がった。
 
都知事は、「東京都の仕事は、まずは国を一番に考えることが当然だ」と一蹴した。議会についてもそれほど心配している様子はなかった。
 
石原都知事の物言いは、前評判どおり確かに刺激だった。
 
その賛成、反対はさまざまであろう。
 
だが、こういう考え方があることの提示にとどまらず、実際にやってしまうアイディアと行動力が人気の秘密だと感じた。
 
とりわけ、私がもっとも感動したのは、フルナー所長との最初の出会いとなる会談で、石原都知事が、共通の知り合いであろう人との秘話を披露したことだ。
 
都知事が若い参議院議員だったとき、ニクソン元大統領と心が通じた会話をした思い出をフルナー所長に語り、フルナー所長も、ニクソン元大統領との思い出を返していた。
 
フルナー所長は、どこで覚えたのか日本語で「一番関係」と語り、石原都知事の来訪を歓迎した。
 
そういう中でも、石原都知事は「アメリカでは日本に対して、太平洋戦争のトラウマはどのぐらい残っているのか」と信頼するアメリカ人にしか出来ない質問を、懇談の最後にして、フルナー所長を信頼していることを見せたように感じた。
 
フルナー所長はその質問に対し「ないとはいえない。少ないが残っている。だが、そんなことを考えさせないような日米関係を今までに築いてきている」と真摯に答え、両者はランチの会場に赴くことになった。
 
大物同士の会話になれていない私は、緊張の頂点にあった1日だった。

横江 公美
客員上級研究員
アジア研究センター

Ph.D(政策) 松下政経塾15期生、プリンストン客員研究員などを経て20117月からヘリテージ財団の客員上級研究員。著書に、「第五の権力 アメリカのシンクタンク(文芸春秋)」「判断力はどうすれば身につくのか(PHP)」「キャリアウーマンルールズ(K.Kベストセラーズ)」「日本にオバマは生まれるか(PHP)」などがある。

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